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ウェルビーイングとは:健康の本質"Well-being"を自然体で実現したスティーブ・ジョブズに学ぶ

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従業員の健康管理を個人の問題とせず組織的な経営の視点で捉え、戦略的に取り組む運営を「健康経営®」といいます。従業員の健康推進により、職場の活力が高まり生産性が向上し、業績や企業イメージのアップが期待できます。

経営視点で健康面から人材管理を行おうとする健康経営に対し、従業員の視点から生きがいや生活満足度、幸福度といった価値を指標とした「ウェルビーイング」に着目する経営が、ここ数年特に注目されるようになってきています。

本記事では、ウェルビーイングの概要として、健康経営とウェルビーイング経営にはどこに違いがあるのか、ウェルビーイング経営がなぜ必要なのかについて解説し、併せて、ウェルビーイングのあり方を自身の生き方でごく自然に体現していたアップルの創業者スティーブ・ジョブズのエピソードをご紹介します。

ウェルビーイング経営とは

はじめに、ウェルビーイング経営とはどのようなものを指すのかについて、概要をみていきましょう。

ウェルビーイングとは

ウェルビーイング(Well-being)は、厚生労働省の雇用政策研究会が2019年7月にまとめた報告書によると、以下のように定義されています。

「ウェル・ビーイング」とは、個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念(厚生労働省 雇用政策研究会報告書概要版

「身体的・精神的・社会的に良好」という概念は、1946年の世界保健機関(WHO)が設立当初から掲げているWHO憲章の前文の中にうたわれています。

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態(well-being)にあることをいいます。
WHO協会仮訳、太字はWellGo加筆)

ウェルビーイングは、この「心身また社会的に満たされた状態」を持続的な幸せとして個人の中に持ち続けることといえます。こうした幸福の中には、働いて経済的な満足を得ることもあれば、キャリアを積むといった充足感、社会への貢献といった生きがいなど、その人それぞれの多様な価値が入っています。

すべての項目が一定以上の水準であれば幸福であると決まるわけではありませんから、ウェルビーイングもまた、どのような状態が満たされているといえるのかは人により異なります。

ウェルビーイング経営とは

ウェルビーイング経営は、従業員が「就業面からのウェルビーイングの向上」を図ることができるよう職場環境の整備を行い、結果として生産性や企業価値を高めていくことができる経営といえるでしょう。

2019年の雇用政策研究会報告書では、多死・高齢化・労働人口減少が課題とされる2040年問題を展望するにあたり、「ウェルビーイングの向上と企業の生産性の向上の好循環」と「多様な人々が活躍できる社会の推進」が相互補完的な関係となって、一人ひとりの豊かで健康的な職業人生が実現し経済の維持・発展が期待できるとしています。

厚生労働省 雇用政策研究会報告書(2019年7月26日)概要版P1)

個人にとってのウェルビーイングが多様であるように、ウェルビーイング経営もまた、事業内容や規模、労働環境など、経営戦略上の焦点が異なるため、多様な取り組みが展開されることになります。

ウェルビーイング経営と健康経営との相違点

では、経済産業省をはじめ各機関でよく取り上げられている健康経営とウェルビーイング経営にはどのような違いがあるのでしょうか。

健康の定義が「心身また社会的に満たされた状態(well-being)」と重なっていることからも見て取れるように、健康経営とウェルビーイング経営は、ほとんど同じものを指していることがわかります。
違っているのは、どちらの側から話しているのかの視点です。

経済産業省によると、健康経営は次のように定義されています。

健康経営とは、従業員等の健康保持・増進の取組が、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること。
(経済産業省 健康経営の推進について P11)

このように。健康経営はあくまで経営者の視点からの投資と捉えています。極端な言い方をすると、従業員が健康で幸せな状態になることそのものが目的ではなく、あくまで経営的なメリットとして人員を管理するためのものだというわけです。したがって取り組みの対象は、経営トップや管理職などが中心になります。

これに対しウェルビーイング経営は、従業員の幸福の実現が視点の主軸となります。従業員一人ひとりの多様な満足度を高めていくことで、結果的に生産性の向上が得られるという方向で考えるわけです。当然ながらウェルビーイング経営では、取り組みの対象は現場で働く従業員が中心となります。

つまり、健康管理に取り組むにあたって、経営トップや管理職を対象に進めたい場合は「健康経営」を用いたほうが理解を得やすく、従業員全体を巻き込みたい場合は「ウェルビーイング経営」を用いたほうが共感を得やすいといえるでしょう。

ウェルビーイング経営はなぜ必要なのか

ウェルビーイングは国家のビジョンとしても打ち出されています。
政府の「骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針)2022」では、第2章「新しい資本主義に向けた改革」の中で「個人と社会全体のWell-beingのの向上」を目指すとし、さらに第4章「中長期の経済財政運営」の中で「各政策分野におけるKPIへのWell-being指標の導入を進める」と明記し(内閣府 第2回Well-beingに関する関係府省庁連絡会議(2022年6月21日)資料2)、すでにさまざまなKPIや取り組み・予算が公表されています(内閣府 Well-beingに関する関係省庁の連携ページ)

この流れを受け、厚生労働省の2022年度雇用政策研究会では、コロナ禍の経験を踏まえたこれからの社会に向けた雇用政策の方針として、社会構造的な課題となっている人材確保や社会全体の労働力増加につなげる「しなやかな労働市場」のためにウェルビーイングが不可欠なものと提示されています。


厚生労働省 2022年度雇用政策研究会の開催趣旨等について


従業員の視点に立ったウェルビーイング経営は、現在もっとも重要な人的資本経営の戦略上の観点のひとつとして注目されているといえるのではないでしょうか。

スティーブ・ジョブズにみるウェルビーイング

では、ウェルビーイングは、具体的にどのようにして実現していけばよいのでしょうか。

政策上で示されているKPIなどをみていると、健康経営の取り組みと区別のつかないものが多く、従業員の視点がどのようなものを指すのかわかりづらいのですが、ひとりの人間の生き方として観察すると、「心身と社会的つながりをまるごと満たす」という働き方のヒントが見えてきます。

ウェルビーイングな生き方をまっすぐに実現していたのが、アップルの創業者スティーブ・ジョブズです。

日本の文化を愛したスティーブ・ジョブズ

ITの分野で世界を牽引したスティーブ・ジョブズは、若いころから禅の思想に傾倒し、日本の文化に深い関心をもっていたことで知られています。家族を連れて何度も京都を訪れ、馴染みのハイヤー運転手に案内を頼んで、龍安寺の石庭などの寺院や、和食、和菓子などを愛でていたそうです。

亡くなる前年、最後となった京都旅行では、たまたま通りかかった南禅寺界隈の街道で野村別邸碧雲荘の佇まいに心を動かされ、急きょ訪れる機会をもつことができたそうです(碧雲荘は現在公開の予定なし)。
そのときは、曹洞宗大本山の永平寺にも行きたいと運転手に話していたのですが、福井県はさすがに距離があり、体に負担がかかるため果たせなかったとのこと。ジョブズの飽くなき行動力--行きたいところ、やりたいことへの前向きさが感じられます。

そして、旅行の最終日、ジョブズは大好きな寿司を堪能します。特に、青森県大間のマグロを口にしたあとは、そのトロだけを握ってもらい、とても上機嫌で、めったに応じないサインまで書き残したのでした。

最高の状態を、全力で楽しむ

ジョブズがサインした色紙には、こう書かれていました。

All good things.

直訳すれば「すべて良し」にも見えますが、英語のことわざにある “All good things must come to an end.”(どんな良いことでも終わりを迎える)の一部とも読み取れます。

実はこのとき、ジョブズはすでに体調が優れず、京都旅行がこれで最後になるかもしれないと、自ら感じていたのでした。それでもジョブズは、全身で、全力で、今ここにいる自分が見ているものや口にしたものを味わい、幸せと感じることを続けます。

その言葉どおり、これが最後の京都旅行となってしまったが、店から出たジョブズは大島さん(注:ハイヤーの馴染みの運転手)の車に乗り込むと、「人生で初めてこんなおいしい寿司を食べた!」と絶叫した。
車を走らせ始めた大島さんが、「3時間も何を食べていたの?」とたずねると、ジョブズは「トロを6つ」と答えた。
大島さんが「それだけ?」と聞くと、ジョブズは「そう」。
NHK WEB特集「スティーブ・ジョブズ in 京都」)

ジョブズは「今」を大事にしました。ビジネスでは、予告なく方針を変えることも多く、最高の仕事と納得するまで妥協しない厳しさをもっていたことでも有名です。

ジョブズの思いは、スタンフォード大学の卒業式のスピーチで「心からの満足を得るための唯一の方法は、自分で最高の仕事だと信じることをすることだ。そして、最高の仕事をするための唯一の方法は、自分のすることを愛することだ」と説き、繰り返し「Don't settle.(立ち止まるな)」と語りかけた言葉からも読み取ることができます。

Your work is going to fill a large part of your life, and the only way to be truly satisfied is to do what you believe is great work. And the only way to do great work is to love what you do. If you haven't found it yet, keep looking. Don't settle. As with all matters of the heart, you'll know when you find it. And, like any great relationship, it just gets better and better as the years roll on. So keep looking until you find it. Don't settle.
(Stanford Report, June 14, 2005 ジョブズのスピーチ;太文字はWellGo加筆)

自分を信じ、最高だと感じるまで進もう。有限のこの身、たとえ病など体が思うようにいかなくても、心が今を最高と感じるように。
ジョブズは、その思いのままに生きる自分を大切にすることで、ウェルビーイングを自然な形で体現していたともいえるでしょう。

もう彼に直接伺うことはかないませんが、ステージの進んだガンの闘病だったのですから、おそらく体の痛みや苦しみ、残された時間の短かさに悩んだことも多かったはずです。それでも彼は、「今ここにあること」に対して、最後まで妥協しませんでした。立ち止まらず、最高の時間をつくり、そして心から楽しんで「満たされて」いたのです。

ウェルビーイング視点を経営戦略に活かそう

ジョブズを支えていたのは、今の状態をありのままに受け止め、自分を信じようとする「自己受容」と、自分の信じる最高の状態は自分で決めるのだという「自己決定」でした。そして、ジョブズは、周囲の人たちとその気持ちを分かち合いました。

最高を追い求めるひたむきさや自己決定の強さに、ときには混乱も招いたかもしれません。でも、今このときを全力で生き、信じて動くその姿に影響され、共感と絆が広がっていったことで、あれだけの大きな事業をなしとげたといえましょう。

自己受容、自己決定、共感と絆の分かち合い。これはまさに、心身ともに健やかで、社会的つながりをもち満たされた状態であるウェルビーイングのありかたそのものです。

ジョブズが色紙に書き遺したように、最高の状態はいつまでも続くものではありません。年をとれば体調も下降気味ですし、思うように成果も出せなくなるでしょう。人は、機能価値では幸せになれないのです。

毎日の小さな気付きの中で、今ここにある自分を受け止め、最高の状態だと自分が信じるものを目指す。全力で向き合い、楽しむ。周囲とつながって、感動を共有する。存在価値を高めるウェルビーイングの生き方により、人は本質的に「満たされた」状態になっていくのです。

ジョブズが学生に語りかけたように、わたしたちが生きるなかで働くという行為は、時間的にも意味的にも大きな位置を占めています。
わたしたちは、最高の状態に満たされて今を生きているでしょうか。
自分を受け止め、仕事と全力で向き合い、楽しみ、周囲と分かち合っているでしょうか。

人の時間は有限です。ウェルビーイングな状態で働き、最高の時間を共有することができるよう、生きることの本質を掲げた働き方を目指していきたい。そして、そのような思いで生きる多様な従業員を受け止め、支えるウェルビーイング経営を目指していきたい。WellGoは、そのような企業を全力で応援しています。



※ 健康経営®は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。


WellGo編集チーム
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WellGo編集チーム

プロフィール画像は、WellGo公式キャラクターの「うぇるごろう」。「健康という無形資産の考え方を変え、生き方を変える」を目標に、主に現場の医療職や健康経営担当者向けの情報をお届けします。営業戦略部マーケティングのWellGo編集チーム。