JP EN
  • TOP
  • コラム
  • 「健康経営」を改めて理解しよう|これで語れる健康経営(1)
健康経営

「健康経営」を改めて理解しよう|これで語れる健康経営(1)

アイキャッチ画像

index

「健康経営®」は、企業が経営戦略として進める健康管理です。
概念的に重要とされるだけでなく、具体的な取組み制度として、経済産業省による健康経営度調査や、健康経営銘柄、健康経営優良法人などが展開され、ESGの観点からも注目が集まっています。

本記事では、企業が知っておくべき健康経営について、基本をおさらいしつつ、重要ポイントを整理し、開設していきます。次の内容でシリーズにしてお届けする予定です。

  1. 健康経営とは ←本日の記事

  2. 健康経営の歴史を学ぶ

  3. 健康経営でやるべきこと

  4. 健康経営事例集

すでに健康経営を推進しているみなさんは、基本の再確認やアップデートに、これから健康経営を検討されているみなさんは、全体像の把握や取組みのヒントに、それぞれご活用ください。

健康経営とは

まず、健康経営の定義のおさらいから始めましょう。
健康経営の取組みを強力にプッシュしている経済産業省では、次のように定義しています。

「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されます。
健康経営は、日本再興戦略、未来投資戦略に位置づけられた「国民の健康寿命の延伸」に関する取り組みの一つです。
経済産業省「健康経営」冒頭の説明文

この説明を素直に分解していくと、健康経営は次のように考えるものであることがわかります。

  • 健康管理は、経営の視点とらえるものである。
  • 従業員の健康管理は、企業の経営戦略として実践する必要がある。
  • 健康管理は、経営理念に基づいて行う
  • 従業員の健康管理は、コストでなく投資と考えるべきである。
  • 健康管理によって組織の活性化企業価値の向上など好循環をつくることができる。

企業が健康管理を積極的に行うことにより、以下のような効果が期待されます。

  • 従業員:パフォーマンスやモチベーションが向上し、終業時間内の生産性が上がる
  • 企業:生産性向上により業績が伸び、健康への配慮の好印象で企業イメージが高まる
  • 社会:医療費が削減されて保険制度が安定し、保険料の負担が軽減される

つまり、企業が行う健康管理である「健康経営」は、従業員の人事コストの範囲を超えた経営戦略の重要な柱となるのです。


健康経営で取り組む「三方良し」の健康管理

では、積極的に健康経営を企業戦略に取り込むとどんなメリットがあるのでしょうか。
投資家目線、経営者目線、従業員目線の3つの方向からみていきましょう。

投資家の視点で考えた場合

投資家の視点で考えた場合、健康経営で大きなメリットとされるのは、企業イメージの向上です。
投資家からすると、これからますます注目されるであろう「ESG」の「S」に対する姿勢がわかります。

経営者が積極的に人的資本の充実を図っているかを測る指標があります。
「健康経営度調査」です。経済産業省が主軸となって取組みを進めており、健康経営の可視化を図っています。優秀な取組みは「健康経営銘柄」「健康経営優良法人」といった形で公表される顕彰制度もあります。
(詳しくは「3健康経営でやるべきこと」の記事で説明する予定です)

経営者の視点で考えた場合

社内の運営を考えた場合、健康経営は、従業員の生産性(パフォーマンスやモチベーション)の向上、人材の確保・定着の向上、企業負担の医療費軽減、SNSなどによる企業評価など社会的認知の向上といった点がメリットとして挙げられます。

従業員の視点で考えた場合

健康管理という名前からは管理されるイメージが強いかもしれませんが、従業員にとってもメリットは大きいといえます。社内全体で健康管理と労務管理を一元的なしくみにすることにより、心身ともに健やかな働き方や社内のコミュニケーションなど、従業員の(家族も含めた)働く環境が改善されます。
健康が目指す理想のありかた-身体的・精神的・社会的に満たされた状態、Well-Being に近づいていくのです。

健康経営に注目が集まる理由

健康問題が経営戦略の重要な柱となった背景や、健康経営のこれまでの歩みを簡単にみておきましょう。

健康寿命が重要視される社会的背景

ひとつには、少子高齢化に伴う生産年齢人口の大幅な減少という社会的事情があります。

高齢化の推移と将来推計(内閣府「令和5年版高齢社会白書」)






2022年10月1日時点の確定値では、現在の人口構成は、高齢者(65歳以上)が29.0%に対し、生産年齢人口(15~65歳)が59.4%となっており、生産年齢人口が高齢者を支える割合は2.0%です。
この傾向は、2070年に向けて加速します。高齢者の割合は上がる一方なのに対し、それを支えるべき生産年齢人口は増えず、支える割合は1%台へと減少し続けていくのです。

いくら少子化対策を強化しようと、この傾向は根本的には覆らないでしょう。このため、高齢者を定義する年齢を75歳以上に引き上げるなど、高齢者と支える割合のバランスを現実的なものにしていく必要があるともいわれています。

現代は「生涯現役」つまり、年齢にかかわらず少しでも長く働いて社会を支える側に回っていかなければ立ち行かなく社会なのです。単なる寿命の引き伸ばしでなく「健康寿命」が重要視される理由もここにあります。どんな人でも長く働けるよう、一人ひとりが心身ともに健やかに暮らせる環境が不可欠なのです。

ヘルスケア産業制作の基本理念~生涯現役社会の構築~(経済産業省「健康経営の推進について」令和4年6月)




健康管理の起源はアメリカの生産管理

健康経営は、企業理念に基づいて行う従業員への健康投資です。この概念の始まりは1990年代のアメリカ、臨床心理学者のロバート・ローゼンが提唱しした「ヘルシー・カンパニー思想」にみることができます。

当時のアメリカは、労働災害が増える一方で公的医療保険制度がなく、企業の負担する従業員の医療費が経営を圧迫し、深刻な問題となっていました。

このため、従業員の健康促進を投資と考えて積極的に行い、生産性の向上につなげようという構想を打ち出したのです。

ヘルシー・カンパニーは、Health and Productivity Management、つまり、従業員の健康と労働生産性を同時にマネジメントするという考え方です。

「健康な従業員こそが企業の収益性を生み出す」として、病気になってから医療費を払う「疾病モデル」から、人的資本への投資として積極的に健康管理する「生産モデル」へと転換したのです。


日本における健康管理の展開

「健康経営」の言葉は、2006年に設立されたNPO法人健康経営研究会による啓発活動で用いられたのが始まりです。2010年代に入ると、政府も「健康経営」の言葉を使い、国民の健康促進のための国策のひとつとするようになりました。2013年に発表された「日本再興戦略」の中で、国民の健康寿命の延伸が主要テーマとして挙げられました。翌2014年に発表された改訂版で「健康経営」の言葉が、健康投資の考えの中で用いられます。

健康経営に関する制度の展開

この流れを受けて経済産業省は、2014年度より経営的な視点で従業員の健康管理に取り組む企業を表彰する制度を創設しました。健康経営に積極的に取り組む優良な企業を可視化することにより社会的な評価を与える環境を整えたわけです。

2014年度からは、企業の健康経営の取組状況を測る「健康経営度調査」が実施されるようになり、回答結果を基に東京証券取引所の上場企業の中から特に優れた健康経営を行う企業を「健康経営銘柄」として選定する制度が始まります。
また、2016年には、上場企業の枠を外した「健康経営優良法人認定制度」が創設されました。健康経営優良法人認定制度には、大規模法人部門中小企業法人部門があります。特に優良な健康経営を実践する上位法人に対しては「ホワイト500(大規模法人部門)」「ブライト500(中小規模法人部門)」の特別称号が与えられます。

未来投資戦略(2017年~)

2017年に政府は「未来投資戦略2017」を掲げ、経済の長期停滞を打破するため、第4次産業革命を積極的に取り込んだ「Society 5.0」 の実現に向けて、新しい経済政策を打ち出します。
この戦略分野の筆頭に「健康寿命の延伸」が挙げられました。特に、データを活用した予防・健康づくりの強化が重視されるようになります。また、領域を横断する横軸のひとつに、「稼ぐ力」の強化をうたい、企業と投資家の建設的対話を促しています。
健康経営銘柄や健康経営優良法人の顕彰制度についても、選定基準を見直して取組の質的向上を促すようになっていきました。

成長戦略(2019年~)

2019年からの「成長戦略」では、質的向上への転換がさらに推し進められました。保険者と企業とが積極的に連携して健康経営を行い、健康経営の成果が投資家から適切に評価されるよう環境整備が進みます。
2020年には、健康経営への投資を可視化する「健康投資管理会計ガイドライン」が発表され、健康経営の各種指標が例示されるようになりました。
そして2021年には、このガイドラインに沿って管理会計を作成する際の具体的な留意点をQ&A形式で解説した「健康投資管理会計 実践ハンドブック」が公開されています。

また、2021年度からは、成長戦略フォローアップとして、健康スコアリングレポートを保険者単位に加えて事業主単位でも実施し、保険者・企業の連携(コラボヘルス)の取組みを強化しています。

健康スコアリングによって経営者に気づきを与え、保険者と問題意識を共有しつつ健康経営の取組みを進めていくことが求められ、取組みを活性化させる制度として、健康経営銘柄や健康経営優良法人認定制度をはじめとした健康経営の顕彰制度が広がってきているのです。

健康スコアリングと健康経営検証制度との関係(経済産業省「健康経営の推進について」令和4年6月)



健康経営は企業の生き残り戦略の重要ポイント

通信ネットワークの技術や、IoT、ビッグデータ、AI、ロボットの技術革新(第4次産業革命)により、モノの獲得が飽和し、コトの消費へと変わりつつあります。
感染症の世界的拡大も拍車をかけました。これまであたりまえとされていた知識やノウハウが、しばらくすると非常識とされてしまいます。単純には見通しが立たない不確実な世の中(VUCA)になっているのです。

さまざまな価値観が早いサイクルで世界に広がる現在、働くことの意味も、働き方も多様化しました。せっかく確保した貴重な人材が、体調がすぐれないからという理由でパフォーマンスを下げてしまうのは、大きなリスクになるでしょう。
病気に至らずとも「働くのがつらい」「自分には合わない」などとモチベーションを下げた状態は、通信ネットワークや個人デバイス(スマートフォンなど)が浸透した現在、企業イメージにも大きな影響を与えてしまいます。

経営視点での健康管理は、このように、現代を乗り切る生き残り戦略のひとつとしても、積極的に取り入れていく必要があるのです。

健康優良法人に認定される企業は年々増加している

経済産業省が毎年行う健康経営度調査に回答し、健康経営優良法人に認定される企業は、年を追うごとに増加しています。今では認定法人で働く従業員数は770万人、日本の被雇用者の13%まで広がりました。

画像「未来の健康づくりに向けた取組の方向性」(経済産業省 第3回健康・医療産業協議会)より

また、健康経営銘柄2021に選定された企業の平均株価とTOPIXの推移をみると、銘柄企業の株価はTOPIXを上回る形で推移し、健康経営の取組が株価に好影響を与えていることが明確になっています。

画像
「未来の健康づくりに向けた取組の方向性」(経済産業省 第3回健康・医療産業協議会)より

これからは、「三方良し」の健康経営を日本のブランドとして積極的に展開するため、国際ルールづくりや海外からの投資促進などに広げていく施策も見込まれています。


現在はその推進力として、データによる健康管理の可視化を進め、具体的な実現性を高めた「データヘルス計画」や、が展開しています。

特に、ICTの活用がうたわれています。スマートウォッチなどのウェアラブル端末や、ヘルスケアアプリによる健康データを活用した健康管理を拡大し、医療機関、職場、地域が連携して効果的な健康管理のアプローチを行って行動変容を促そうというわけです。

画像「未来の健康づくりに向けた取組の方向性」(経済産業省 第3回健康・医療産業協議会)より

デジタル技術による未来の健康経営は、もうそこまで来ています。
積極的に取り込んで、健康経営の波に乗りましょう。


※ 健康経営®は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。


「これで語れる健康管理」シリーズ 目次

 (1) 健康経営とは      ←本日の記事

 (2) 健康経営を歴史から学ぶ     

 (3) 押さえておきたい健康経営ワード15選

 (4) 知っておきたい国内の取り組み事例


WellGo編集チーム
記事を書いた人
WellGo編集チーム

プロフィール画像は、WellGo公式キャラクターの「うぇるごろう」。「健康という無形資産の考え方を変え、生き方を変える」を目標に、主に現場の医療職や健康経営担当者向けの情報をお届けします。営業戦略部マーケティングのWellGo編集チーム。